なぜ呼び方が違う?犬走りと土間コンクリートの名称の由来と違い
住宅の外構で目にする「犬走り」と「土間コンクリート」。形や素材は似ていても、呼び方には歴史や機能、施工方法の違いによる明確な背景があります。
本記事では、なぜ同じコンクリート舗装なのに名称が分かれるのか、呼び方のルーツと役割に注目して解説します。
1. 名称の由来:犬走りと土間コンクリート
犬走りの名称ルーツ
- 江戸時代、城郭や町家の塀際に幅約3尺(約90cm)の通路が設けられ、「犬が走れる幅」として「犬走り」と呼ばれました。民家においても、庇先端直下の公私境界に雨水を流す下水溝と併せ、犬走り設置が幕府によって義務付けられていました。
- 当初は塀や土塁の外側、あるいは公道沿いの家の外周などに設けられ、雨水排水や防火用水の天水桶設置にも活用されました。管理は所有者責任で、汚損や通路上の営業は禁止されていたことも記録されています。
(参照)国土交通省 未知の歴史 近世の道 江戸の町と道
土間コンクリートの名称ルーツ
- 「土間」は日本建築の床仕上げ用語。土間は土の上に直接仕上げ材を敷いた床を指していました。
- その現代版が「土間コンクリート」で、土間仕上げの一形態としてコンクリートを材料とした広い床面舗装を意味します。
2. 呼び分けのポイント:規模と用途の差
- 規模(面積・幅)
- 犬走り:幅0.5~1.0m程度の細い帯状。建物まわりをぐるりと囲む狭小範囲。
- 土間コンクリート:数㎡~数十㎡の広い面積。駐車場やアプローチといった平坦床面全般。
- 用途(役割)
- 犬走り:泥はね防止、基礎保護、点検路、雑草抑制など建物保護が主目的。
- 土間コンクリート:車両荷重対応、バリアフリー動線、大面積防草など、人や車を載せる床面が主目的。
そのため、同じコンクリートでも規模と役割の違いで名称分離が起こっています。
3. 施工仕様の違いと名称の結び付き
項目 | 犬走り | 土間コンクリート |
---|---|---|
幅・面積 | 0.5~1.0m幅、数㎡程度 | 数㎡~数十㎡、駐車台数に応じた広さ |
厚み | 5~8cm(人荷重想定) | 10cm前後(車載荷重対応) |
下地 | 砕石+ワイヤーメッシュ、一方向勾配 | 砕石10cm+全面配筋、2~3%勾配、目地処理 |
主な用途 | 建物基礎保護、防湿、防草、点検路 | 駐車場、アプローチ、テラス、防草、防災用途等 |
施工方法や仕様が名称に直結し、呼び分けの根拠となっています。
4. 呼び方の境界があいまいなケース
- 狭小地で全面を10cm厚のコンクリート打設:仕様上は土間コンクリートですが、機能的に犬走り相当の役割(基礎保護・点検通路)を果たす場合も。
- こうした場合、業界では「土間コンクリート仕上げの犬走り」など、両名称を組み合わせて呼ぶことがあります。
基本的には仕様と用途を優先して名称を選ぶのがポイントです。
5. まとめ:名称が示す背景を理解しよう
- 犬走りは、歴史的に「犬が走れる幅」の細長い通路が起源。建物保護目的で設けられます。
- 土間コンクリートは、「土間仕上げ」の広い床面をコンクリートで行う現代用語。駐車場やアプローチなど大面積が特徴。
- 規模・用途・施工仕様によって名称が分かれ、同じコンクリートでも目的が違えば名前も変わるのがポイント。
- あいまいな狭小地施工では「土間コンクリート仕上げの犬走り」など複合的な名称も使われる。
現在の外構施工においては、「犬走り」と「土間コンクリート仕上げ」の明確な区分は実務上あまり設けられておらず、「犬走り」という表現自体も使用頻度が減少傾向にあります。特に、隣地との離隔が限られる都市型住宅においては、未舗装のままにするか、区域全体をコンクリート打設による仕上げとするケースが多く、「土間コンクリート仕上げ」と総称されることが一般的です。両者の呼称に明確な技術的差異が存在しないため、表現の選択に過度なこだわりは不要といえます。